2日目。この日はテレルジ国立公園と呼ばれるエリアに現地のツアーで向かう。ウランバートルからは車で1時間半ほど。
ウランバートルは渋滞がひどく、この日も手配した車が泊まっているホテルに到着するまでに1時間ほど遅れた。
途中でトイレ休憩で寄った幹線沿いのショッピングモールにやたらと人懐こい犬がいた。かわいい。狂犬病怖いから挨拶だけする。


今回私を案内してくれるガイドのナンジくんは22歳で、モンゴルの大学で日本語の勉強をしているらしい。数年前に日本に留学していたこともあり、日本語はとても上手。ただ、大半をNARUTOと鳶職の現場で学んだという日本語はナンジくんの好青年な雰囲気とやけにアンマッチで面白かった。

まず亀石というとにかくデカい石を見に行った。ある角度から見ると、大きな亀のように見える。石というか岩というか、もはやちょっとした山だった。上まで登れるぞとナンジくんに連れられる。険しい岩肌を街中用のニューバランスのスニーカーで登る。僕が上に着いた頃には息が上がって一言も発せないほどだったのに、ナンジくんは涼しい顔で「タバコあるか?」と聞いてくる。若い。


その後また車を走らせ、チベット仏教の寺に向かう。参道には108の煩悩について1つ1つ解説しているパネルがあって、僕の煩悩を棚卸しする気満々だったのに、ナンジくんに「時間ねえからな、近道で行くぞ」と言われ、煩悩は2つしか見れなかった。どうせ参道の方を選んでも15個目くらいで多すぎる煩悩の種類に打ちのめされて、まともにパネルを見ずに歩いただろうから、たいして変わりはない。
寺にはマニ車があった。かつてお経が読めない人であっても仏様への祈りを捧げられるように作られた、便利な秘密道具である。これを回すだけであのクソ長いお経を読み上げたことと同じ効果が得られるらしい。それでいいのかい、ダライラマ。この大コスパタイパ至上主義時代にぴったりな祈りもあるんだな、と微妙な気持ちになりながらミーハーなので一応回しておく。

寺を後にして、僕がずっと見たかった、この旅の目的の1つを見に行く。そう。巨大チンギスハン像。男の子だから、もうとにかくデカい像が見たいのである。ましてやあの最強と謳われたモンゴル帝国の王。ロマンしかない。何もない草原に佇む巨大な銀色のチンギスハンは僕の期待通り、大きく、あまりにも力強い。険しいチンギス様と自撮りまでできてしまい、ご満悦。

像のふもとには観光客を狙ってやろうと狭いスペースにラクダ乗り体験ができる場所やモンゴルの弓を打てるコーナーなどが集まっていた。少し癪だが、そういえば自分は観光客だ。そう開き直ってラクダに乗る。フタコブラクダ🐫のコブとコブの間に乗る。ラクダの体温なのか、なんだか生ぬるい。コブを掴んでみたけど思ったより柔らかくてもふもふだった。駐車場の脇の風情も何もないスペースで、ちょこまかと往復を繰り返しただけだったが、まんまと楽しんでしまった。


この日はゲルに泊まる予定だったので、そのままゲルに向かう。ここで乗馬を2時間くらいした後、晩ご飯を振る舞ってもらう。晩ご飯には羊を1匹まるごと焼いて食べるらしい。ホルホグといって、モンゴルの遊牧民にとってのご馳走だ。
今夜ホルホグにされてしまう羊をしめるところを見せてくれるという。まず腹に小さな切れ込みを入れる。そこから手を突っ込み、腑をさらす。それで羊はほぼ即死するらしく、数秒間だけ苦しみ、最後の大きな息を吐く。目から光が失われる。それは僕が想像していたよりも呆気なく、静かで、でも確実に命が1つ消えていく、強烈な作業だった。

なんだか食らってしまった僕だったが、彼ら遊牧民にとっては日常であり、あっけらかんとしていた。これが彼らのスタイルであり、生き方なのだ。「じゃ、馬乗るよ〜」と何も気にしていないその明るさに感謝しながら、馬の方へ向かう。栗毛でそこまで大きくない子が今日の相棒。馬に乗って何もない草原を行くのは、言葉では表せない何か特別な体験だった。馬の背中から感じる地面の感触、無限に広がっているように見える草原、広すぎる空。全てが日常に存在しない感覚だった。ただ2時間くらい乗っていたので後半は尿意とケツの痛さとの戦いでもあった。

夜は命に感謝しながらホルホグをいただく。同じゲルに泊まることになったご夫婦と相席になったので話す。新婚旅行でモンゴルに来ているらしい。これだけでも結構渋くて珍しいのに、明日から2泊3日で馬に乗ってキャンプをしながら川のほとりを下っていくらしい。マジで元気すぎる。リゾートでボーッとするのも悪くないが、こんな新婚旅行もアリかも。

本当に星が綺麗だった。上手く撮れたのでスマホのロック画面にした。でも日本に帰って画面を見るたびに、こんな狭くないもっと広いんだよなとモンゴルが恋しくなる。ゲルは寒すぎて薪ストーブを焚いてもらった。それでも寒くて顔まで布団をかぶって眠った。





